創作家のつぼみ
漫画家を目指すある女のブログ。 最近はもっぱら漫画制作日記と萌えの掃き溜め。好きなことを好きなように語っています。
消えた思い出~誤算~
今ではもう70年も前のことだろうか。正確な年号は思い出せない。
人通りのない田舎の小道。思わず目を瞑ってしまうような突風と共に、彼は人間の住む土地へと足を下ろした。
墨谷悟。ちょうど130の歳を迎えたばかりだった。
人間には気付かれない様にと、着地には細心の注意を払った。まして人の気配は無いに等しい田舎の道。誰かに見られているはずもない――――・・・・・・彼がそう思ったのと、何者かに袖を掴まれたのとは、ほぼ同時だった。
「お兄さん」
驚いて声の聴こえた方へ顔を向けると、大きな黒い瞳とぶつかった。
「今、どこから出てきたの?」
優秀な墨谷にしては、珍しい失敗だった。まさか、人の気を感じ損ねるとは。それも幼い子どものものを。
ぱっと見た限り、目の前の子は七、八歳程度だろう。これ位の年齢なら適当な事を言って誤魔化すのは簡単だったが、今の墨谷は気が動転していて何も言葉に出来ない状態だった。それどころか、今までにないくらい間抜けな顔立ちだ。目をしばたたかせ、口は半開きになっている。
子どもは墨谷の服の袖を掴み、しっかりと彼を見つめていた。
双方そのまま暫らく経ったかと思うと、子どもは何を思ったのか突然にこっと笑って言った。
「ボクは勝野成仁っていうんだ。お兄さんは?」
成仁の笑顔に内心ホッとした墨谷であったが、まだ心臓は高鳴ったままで、上手く声が出るかどうか心配だった。ゆっくりと息を吐いてから、言葉を口にする。
「俺は・・・・・・墨谷悟といいます」
「ああ、よかった。日本語話せるんだね。目が青っぽいから言葉が通じなかったらどうしようかと思ったんだ」
そう言ってまた成仁は笑った。
名前と着物から察するに男の子だろうが、実に女性的な顔立ちをしている。この国の人間にしては色素が薄く、どちらかというと茶色に近い髪の毛は白いうなじを殆ど覆っていた。
「墨谷さんはどうしてこんな所に来たの?この辺の人じゃないよね。キレーな洋服着てるし、ボク墨谷さんのこと見たの今日が初めてだもの」
何故だろう。
見た目はただの子どもなのに、墨谷は妙な感じを受けずにはいられなかった。
「ええ。大分遠くの地域から・・・・・・人を探しに来たんです」
「へぇ、そうなんだ」
こんなに小さな少年なのに、表情から感情が読み取れない。
「この近くに知り合いはいるの?」
「いいえ」
「じゃあボクの所に泊まるといいよ!この辺には宿もないからね」
この時、墨谷は確かな違和感を覚えた。一番初めの問い以外、自分が答えられる事しか訊かれていない。この少年には、何も言わなくても全て見透かされているのではないか・・・・・・。そんな気にすらなってくる。
幼子だからといって油断してはいけないと、墨谷は思った。こちらも本心を悟られないように、人の良さそうな顔を作る。
「泊めていただけるのは有難いですが、迷惑ではありませんか?それに俺達は今出会ったばかりですし、見ず知らずの、しかも瞳が青みがかっている男を、家族の方が何の疑いもせず迎えいれてくれるのでしょうか」
やっと年相応の表情になった。急にたくさん話し掛けられて驚いたのだろう。目を大きくして、きょとんとした顔をしている。ところがそれも僅かなもので、可愛らしい瞳はすぐに力を帯び、不敵な笑みに変わった。
「大丈夫だよ。ボクが上手く言ってあげるから。それにボクの家族は、目の色なんかで人を判断したりしないよ」
「そうですか。それは失礼しました」
墨谷がそう言うと成仁はくるりと背を向けて、
「ついてきて!ボクのお家に案内するから」
そう言って歩き始めた。
それはおよそ70年前。
天候は曇り。
暖かな風によってどこからか運ばれてきた花びらが ひらひらと宙を舞い 近くの水田へと その身を落とした
人通りのない田舎の小道。思わず目を瞑ってしまうような突風と共に、彼は人間の住む土地へと足を下ろした。
墨谷悟。ちょうど130の歳を迎えたばかりだった。
人間には気付かれない様にと、着地には細心の注意を払った。まして人の気配は無いに等しい田舎の道。誰かに見られているはずもない――――・・・・・・彼がそう思ったのと、何者かに袖を掴まれたのとは、ほぼ同時だった。
「お兄さん」
驚いて声の聴こえた方へ顔を向けると、大きな黒い瞳とぶつかった。
「今、どこから出てきたの?」
優秀な墨谷にしては、珍しい失敗だった。まさか、人の気を感じ損ねるとは。それも幼い子どものものを。
ぱっと見た限り、目の前の子は七、八歳程度だろう。これ位の年齢なら適当な事を言って誤魔化すのは簡単だったが、今の墨谷は気が動転していて何も言葉に出来ない状態だった。それどころか、今までにないくらい間抜けな顔立ちだ。目をしばたたかせ、口は半開きになっている。
子どもは墨谷の服の袖を掴み、しっかりと彼を見つめていた。
双方そのまま暫らく経ったかと思うと、子どもは何を思ったのか突然にこっと笑って言った。
「ボクは勝野成仁っていうんだ。お兄さんは?」
成仁の笑顔に内心ホッとした墨谷であったが、まだ心臓は高鳴ったままで、上手く声が出るかどうか心配だった。ゆっくりと息を吐いてから、言葉を口にする。
「俺は・・・・・・墨谷悟といいます」
「ああ、よかった。日本語話せるんだね。目が青っぽいから言葉が通じなかったらどうしようかと思ったんだ」
そう言ってまた成仁は笑った。
名前と着物から察するに男の子だろうが、実に女性的な顔立ちをしている。この国の人間にしては色素が薄く、どちらかというと茶色に近い髪の毛は白いうなじを殆ど覆っていた。
「墨谷さんはどうしてこんな所に来たの?この辺の人じゃないよね。キレーな洋服着てるし、ボク墨谷さんのこと見たの今日が初めてだもの」
何故だろう。
見た目はただの子どもなのに、墨谷は妙な感じを受けずにはいられなかった。
「ええ。大分遠くの地域から・・・・・・人を探しに来たんです」
「へぇ、そうなんだ」
こんなに小さな少年なのに、表情から感情が読み取れない。
「この近くに知り合いはいるの?」
「いいえ」
「じゃあボクの所に泊まるといいよ!この辺には宿もないからね」
この時、墨谷は確かな違和感を覚えた。一番初めの問い以外、自分が答えられる事しか訊かれていない。この少年には、何も言わなくても全て見透かされているのではないか・・・・・・。そんな気にすらなってくる。
幼子だからといって油断してはいけないと、墨谷は思った。こちらも本心を悟られないように、人の良さそうな顔を作る。
「泊めていただけるのは有難いですが、迷惑ではありませんか?それに俺達は今出会ったばかりですし、見ず知らずの、しかも瞳が青みがかっている男を、家族の方が何の疑いもせず迎えいれてくれるのでしょうか」
やっと年相応の表情になった。急にたくさん話し掛けられて驚いたのだろう。目を大きくして、きょとんとした顔をしている。ところがそれも僅かなもので、可愛らしい瞳はすぐに力を帯び、不敵な笑みに変わった。
「大丈夫だよ。ボクが上手く言ってあげるから。それにボクの家族は、目の色なんかで人を判断したりしないよ」
「そうですか。それは失礼しました」
墨谷がそう言うと成仁はくるりと背を向けて、
「ついてきて!ボクのお家に案内するから」
そう言って歩き始めた。
それはおよそ70年前。
天候は曇り。
暖かな風によってどこからか運ばれてきた花びらが ひらひらと宙を舞い 近くの水田へと その身を落とした
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龍海(Ryukai)
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絵、イラストを描くこと
自己紹介:
成人済みの絵描き、漫画描き(趣味)。
絵で食べていくことを夢見ている山羊座O型。
好きなものは漫画と猫と堂本光一。
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