創作家のつぼみ
漫画家を目指すある女のブログ。 最近はもっぱら漫画制作日記と萌えの掃き溜め。好きなことを好きなように語っています。
消えた思い出~舞台~
「他の部屋は、もう殆ど人で埋まっちゃってるんだ。悪いけど此処で我慢してくれる?」
成仁に案内された“蔵書室”は、文字通り本しかない様な部屋だった。
室内にずらりと並べられた本棚には様々な本が詰められており、それでも入りきらなかったのか机の上には分厚い本が山と積まれている。
墨谷は幼い頃、物を教えてくれる人が居なかった為、ありとあらゆる本を読んで全てを独学で習得してきた。今でも其れは変わらないし、よって本に対しては人一倍親しみを持っている。
どんな書物があるのかと机の上に目をやっていたら、墨のついた筆と何か書き記してある紙を見つけた。
先刻から本を棚に戻したりと忙しそうにしていた成仁が、墨谷の視線に気付いたらしく、何が書いてあるのか理解する前に紙を丸めてしまった。墨と筆も片付ける。
「さっきまでここで勉強してたんだ。気分転換に外へ散歩に行ったんだけど、筆と紙をそのままにしていたのを忘れてた」
散歩の途中で、俺に会ったというわけか。
「読み書きが出来るんですね」
言ってしまってから、いささか失礼な発言だったと後悔した。しかし、相手は気分を害した様子もなく、自然に微笑み「うん」と答えた。
「此処に来た時、和尚様に全部教えてもらったんだ。計算も出来るよ」
「ここに、きたとき・・・・・・?」
疑問はそのまま口に出ていた。
「後で教えてあげるよ。ただ、此処には都会から疎開してきた子ども達と、そうでない子達がいるってこと」
いずれにしろ良い話ではないと思い、墨谷は話題を変えた。
「この部屋は俺が一人で使っていいんですか?」
これだけの本があれば、一日中退屈することはないだろう。この地へ降りてきた本来の目的は何処へやら、墨谷はそんな事を考えていた。
「ううん。ボクも来るよ」
え?
「・・・・・・あの・・・・・・貴方は昔から此処に居るのではないんですか?」
「昔からだよ」
成仁がきょとんとして答える。
「では、わざわざ此処に移動する必要など無いのではないですか?」
成仁はにこやかな表情でこう言った。
「ボクの所も人がいっぱいで狭いんだよね。だったら本に囲まれて眠った方がいいや、と思って。墨谷とも話したいし、迷惑じゃないならここで一緒に寝起きしたいと思ってるんだけど?」
彼は普通の子どもではない。
そんな風に思ったことすら忘れてしまう程、あまりに無邪気な笑顔だった。
「迷惑だなんてとんでもない。暫らくの間、お世話になります」
そう言うと、成仁は嬉しそうに笑い、片付けを再開した。
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龍海(Ryukai)
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趣味:
絵、イラストを描くこと
自己紹介:
成人済みの絵描き、漫画描き(趣味)。
絵で食べていくことを夢見ている山羊座O型。
好きなものは漫画と猫と堂本光一。
絵で食べていくことを夢見ている山羊座O型。
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炎の蜃気楼メイン
この記事へのコメント
小説だぁ!
ほのぼのとしていて、今、いろいろ考え事の多い星影には救いですww
龍海さんの絵がほしいです!
また下さい!!!
では、失礼します。
Re:小説だぁ!
じゃあ暫らくほのぼのさせようかな。ラストとかドロドロだし(笑)。
なかなか直に会えませんからねぇ。
ルキアでも今度描いて載せておきましょうか。
そんな余裕があるのかちょっと分からなかったりするテスト11日前(苦)