創作家のつぼみ
漫画家を目指すある女のブログ。 最近はもっぱら漫画制作日記と萌えの掃き溜め。好きなことを好きなように語っています。
消えた思い出~食事~
いつもの様に外側へハネた髪を背に追いやりながら、成仁は墨谷の焼いた目玉焼きに箸を伸ばした。
「あれ、そういえば今日・・・・・・ああ、昨日やったよね」
墨谷はテーブルの傍に立ったまま、何も答えなかった。
成仁は目だけで墨谷を見て、
「何、仕事いっぱいして疲れたの?」
と訊いた。墨谷はなおも黙っていたが、成仁は彼の僅かな表情の変化を見逃さなかった。
食事の手を止め、妖しい微笑で囁く。
「・・・・・・欲しい?」
パキン、とどこからか音がしたと思うと、成仁は更に笑みを深くし、来ているシャツのボタンを外し始めた。
「じゃあいいよ、今日は」
墨谷は成仁の両肩を軽く掴んだ。
その爪は、いつの間にか鋭く伸びている。
「特別ね」
墨谷は成仁の首筋をなぞる様に自分の唇を寄せると、鎖骨のやや上辺りで止まり、先刻は確認できなかった長い牙でそこに噛み付いた。
本来なら血が流れる所だが、それは墨谷が一滴も落とさず吸っているので見られない。成仁は平然とした顔だ。
二人ともあまり動かない為、時計が時を刻む音しか聞こえない。
成仁の血液が、墨谷の体へゆっくりと流れ込んでゆく。
もう何十分経っただろうか。墨谷は満たされると成仁の体からそっと牙を抜き、傷口をペロリと舐めた。もう殆ど血は止まっている。吸血鬼の唾液には、人間の治癒能力を上げる働きがあるのだ。
更に言えば、牙からは吸血鬼特有の毒が出る。その為牙を立てられた人間は血を吸われた後、人ならざる者へと変貌してしまう。
だが成仁は牙を立てられたにもかかわらず、体に大きな変化は見られない。
その理由は、成仁が墨谷の“生を共有する者”だからである――――・・・・・・。
この記事へのトラックバック
トラックバックURL
カウンター
ブログ内検索
カレンダー
プロフィール
絵で食べていくことを夢見ている山羊座O型。
好きなものは漫画と猫と堂本光一。
この記事へのコメント